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木曽桧で作る簡単設置のモダン神棚

祈り雲が大切にする三つのこと~その壱~
見えないところにこだわる
結果は同じでも
手研ぎの奥は深いとはいえ、現代では機械で鑿を研ぐのが主流です。職人の世界でも、この研ぎ機を置いている工房がほとんどです。完成された作品を見たとき、よく切れる鑿で仕上げたかは職人には分かります。しかし、それが機械を使って研いだ鑿なのか、それとも手で研いだ鑿なのかは職人でもわかりません。つまり、研ぎ機を使っても仕上がりに差はないという事です。そして、研ぎ機を使った方が早く研ぐことができる。もし、この記事を読んでいるあなたが職人だったら研ぎ機を使いますか?それとも手で研ぎますか?
効率が失うもの
多くの人は研ぎ機を使うと答えるのではないでしょうか?私はというと、職人ですが研ぎ機を持っていません。非合理的と思われるかもしれませんが、全ての刃物を手で研いでいます。研ぎ機を使うと早く研げるのは確かですが、早いと言っても、一本当たり数分です。それは、一日当たり十数分の差で、一年にすると2~3日を余分に研ぎのためだけに費やしているという計算になりますが、目先の時間短縮のために、「大切なもの」を失ってしまうリスクの方が深刻だと考えています。そして、その大切なものは目には見えません。
目に見えないこと
鑿を研ぐことはそれ自体が職人仕事です。切れる鑿とはどういうものなのかを、「研ぐ」という行為の繰り返しの中で、理論的に又、体感として理解していく事が職人の成長です。機械を作動させそこに鑿の刃先を当てれば切れる鑿にはなるのですが、その中には、職人になって十年以上経った今でも時折体験する「なるほど、そういう事だったのか」といった発見はありません。つまり、研ぎに機械を使うという事は、「成長を犠牲にして数分の時間を獲得する」という事になります。これは果たして合理的なのかという疑問にたどりついた結果、完全に手で研ぐ事に決めました。
そしてこれからも
彫刻作業に比べ、刃物研ぎは見た目が地味なので、その大切さはわかりにくいと思いますが、刃物を研ぐ事は、人が刃物を発明したときから、何千年どころではない歴史があります。時代とともに機械があらゆる行程に導入されてきましたし、私もバンドソーやドリルなど多くの電動工具を使います。しかし、木彫刻師として、その手と一体となって使う鑿とその手入れに関しては、そこに機械を入れません。手で鑿を研ぐことは、木彫文化を担う一人の職人として、侵してはならない「聖域」のようなものだと思うからです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
さらに詳しく知りたい方は、下の記事もご覧ください。
祈り雲が大切にする三つのこと
~その弐~
祈り雲が大切にする三つのこと
~その参~
伝統彫刻の職人の世界では「研ぎ十年」という言葉があります。一人前に研げるようになるまでの一つの目安のような意味です。私が彫刻師を目指して間もない頃、「10年」と初めて聞いたときは、「大げさな表現だな」と思いました。職人仕事の価値を高めるために、そう言っているだけだと思ったのです。この世界の奥深さも何もわかっていなかったのですね。実際は、10年をとうに越えた現在でも、鑿を研いでいると「なるほど、そういう事だったのか…」と気付くことが度々あります。手研ぎの奥はまだ深い、と感じる日々です。

手で鑿を研ぐ



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